「まなさんと一緒」の日々

一緒に暮らしている、猫のまなさんとの日常を記していきたいと思います。

読書メモ「五色の虹」の1

五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後 (集英社文庫)

五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後 (集英社文庫)

 

 

 

最近読み終えた「 幻のソ連戦艦建造計画」は面白かったのですが、今読んでいるこの「五色の虹」はめちゃ当たりの予感がします。

 

 

第三章の「藤森日記」と呼ばれる当時17歳だった満洲建国大学の2期生の方が書いた日記のページより

P.73

昼食後、南湖へ魚釣りを見に行く。帰りに満人の部落を通った。実に粗末な家。土塀は崩れて倒れそうになっており、百姓たちは畑を一生懸命に耕していた。振り返ってみると、新京の立派な建物が青空にそびえている。文化的な住宅と崩れ落ちそうな農民の小屋。対照的な光景が何かを問いかけているように思われた。

 

 

ここを読んでおっさんが思い出したのが、以前読んだ満洲国について書かれた本、「キメラ」の巻末近くの文章。

 

「キメラ」P.288

関東憲兵チチハル憲兵隊の憲兵であった土屋芳雄は、一九四四年龍江省林甸県を真冬に訪れたときの見聞として、「統制経済が極限にきて、われわれ農民の生活は最低のところまで追い詰められている・・・この付近には、もう着物も布団もない家がある。なかには丸裸で生活している子供もいる」(略)との中国人老農の声を聞いている。(略)真冬に着る物もない生活をしているはずがないと訝った土屋であったが、実際に丸裸の子供二人を見て愕然とする。

 

 

「キメラ」P.290

満洲国の成果を 、「一九四五年八月、太平洋戦争に敗れて中国に返還した時は、かつての曠野は幾多の近代都市を抱き、東洋においても屈指の近代産業を擁する地となっていた。・・・・その動機はともあれ、日本人の技術と努力がこれを主導したこともまた歴史上の事実である」(略)と、日本人による”開発”とその”遺産”を誇示することが、いかに虚しく、また心なく響くことか。

 赫々たる開発は、丸裸の子どもに一枚の着物すら与えなかったのである。

 

 

おっさん、実に悲しいことに想像力が貧弱で本を読んでいても具体的なイメージが頭の中に描かれることが少ないのですが、「キメラ」の引用ページを読んだ時は、もうもうたる煙をあげる近代的な工場と、なにもわからず厳寒の中に裸でいる子どもの光景が影絵のように頭の中で湧いたんですよね。

 

 

で、上で引用した「五色の虹」のP.73の記述は、同じような景色をおっさんの頭の中に見せてくれました。今度は青空なので影絵の白黒ではないですけれども。

 

 

満州国のエリートを養成するべく設立された建国大学の学生の中にも、この近代と前近代の風景の対比は普通ではないと感じる方がいたのだなと思って、感慨深く、その文章を読みました。

 

 

 この「キメラ」、1993年(大学3年のときに買ったんだな)の奥付のもので、その後、増補版が出たので、それも購入したはずなのですが、おっさんの本棚にその増補版が見当たりません。

 

キメラ―満洲国の肖像 (中公新書)

キメラ―満洲国の肖像 (中公新書)

 

 

おかしいなあ。どこにやったんだろうな。